登山道法が目指すもの

 

 日本は国土の7割を山域が占めている山国である。高山帯、森林地帯、高原、湿原、山麓の低山帯には、登山道、探勝歩道、自然歩道、遊歩道などがあるが、整備、維持管理の法的根拠が曖昧のままに放置されてきた。これまで里地・里山を中心に整備されたきた長距離自然歩道(ロングトレイル)との連携をはかり、初心者から上級者までが利用できる、全国に歩く道のネットワークを構築することが重要である。多くの人々が山の道を歩くことにより、人工林の荒廃、シカの食害、過疎化の進行などの身近な問題から、生物多様性や温暖化などの地球環境問題に関心を抱く契機となる。

 現場を歩き、生の自然に直接ふれることが、最も有効な環境教育の普及啓発となる。また、山域への多様なアクセスの確保により、今までなおざりにされてきた広大な山域の資源価値が飛躍的に高まる。

 登山道法制定の目的は、登山道の整備と維持管理を実施するにあたり、これまで曖昧にされてきた国、地方公共団体、民間による役割分担を明確にし、利用者にも自己責任と応分の受益者負担を求め、将来に向けて安定した登山道(山の道)の利用を促進することにより、山村地域・山岳地域の振興と活性化に貢献することにある。

 特に、遭難救助、トイレの負担、登山道の維持管理などの公益的な役割を果たしている、民間の山小屋事業者への公的な支援を制度化する必要がある。(森 孝順 2022.6.19)