「山はみんなの宝」憲章 発表制定大会

  2013年6月27日(木) 東京環境工科専門学校にて

賛同署名をくださった個人1,058名、団体80団体の方々と、当日大会にご参加いただいた皆様のご賛同をもって、『山はみんなの宝』憲章が制定されました。

 

 

東京環境工科専門学校学生のお二人に憲章を発表していただきました。

記念スピーチ 

 

「為すことによって学ぶ」

 

 

 奥島孝康(賛同呼びかけ人代表:公益財団法人ボーイスカウト日本連盟理事長、元・早稲田大学総長)

◆各山域からの報告

進行:鹿野 久男(「山はみんなの宝」憲章制定委員、元・国立公園協会理事長)

◇(大雪山)

「大雪山における登山道維持管理の協働とその課題」

愛甲 哲也(北海道大学大学院農学研究院准教授、山のトイレを考える会事務局長)

 

 日本最大の国立公園である大雪山国立公園は、1市9町村の自治体にまたがり、神奈川県とほぼ同じ面積を持ち、登山道の総延長は300kmに及ぶ。登山道を維持管理しているのはさまざまな関係者である。 大雪山は、登山道をその自然度や利用者のタイプにあわせて段階的に整備する「管理水準」を設定する日本で最初のモデルケースとなっている。大雪山では9段階の水準を設定し、整備と管理にメリハリをつけることを目的とし、「大雪山登山道整備技術指針」や「登山の心得」も策定された。 しかし、十分に機能せずに今日に至っている。さまざまな課題があるが、一つには、関係者が多様であることにあわせて、仕組みや情報の共有が既存の機関・団体だけにとどまり、事業者や市民との協働まで踏み込めなかったこともある。また、山岳会などの組織が小さくなってきていて、山の活動を支える方々が減っている。地元の人を、山に登る人が手伝えないだろうか。 各地で取り組まれている山を維持する取組に、費用面でも労力面でも積極的に関わっていってほしい。山は、私たちの宝なのだから。

◇(北アルプス南部)「北アルプス信州側」

菊地 俊朗(山岳ジャーナリスト)

 

 この何カ月か、長野県下では山をめぐる議論が活発である。年々増加する遭難とその救助費、登山道や環境維持の財源としての入山税の可否、野生動物対策などである。 平成24年に発生した山岳遭難は254件。傾向としては毎年2~30件ペースで増加し、とくに高齢者が増えている。そして、山岳会などで訓練を受けた経験者が少なくなり、携帯電話で安易に救助を求めるケースも多い。遭難者の8割以上が県外者であり、その都度、危険を伴う出動を求められる県警や地元救助隊の苦悩は深い。ヘリコプターの出動が多く、人件費も含めると5億円にのぼり、山岳関係費は総計6-7億円になる。これらの負担が「入山税」問題の発火点でもある。 しかし、入山税も範囲、使途、公平性など、難題が多い。  一方、登山道は総じて年々歩きやすくなっているものの、登山道やトイレの維持は、山小屋がボランティアで行っているのが実情である。中部山岳は国立公園であり、登山道は1000kmになるが、実は管理者がはっきりしているのは1割ほど。 野生動物の跳梁も著しく、ニホンジカが増えはじめ、2011年で推計10万5千頭。ネズミ算的増殖をするシカを2015年までの3万5千頭に減らす目標があるが、簡単ではない。 受け取る者によって、捉え方が違うのが「山」である。その中で難題が積まれているのが長野県下の情勢である。

◇(石鎚山)「石鎚山におけるトイレの整備と入山ルールについて」

白石 崇(石鎚山トイレ問題検討委員会委員長)

 

 西日本最高峰であり、日本七霊山の一つである石鎚山(1982m)は、石鎚国定公園内にあって、愛媛県人の誇りである。2010年に有志による「石鎚山トイレ問題検討委員会」を立ち上げてたが、このたび来年2014年9月に、避難小屋と環境配慮型・土壌処理方式の「固定式トイレ」の設置を迎える。また、頂上にある既存の放流式トイレは改修して「携帯トイレブース」にすることになった。 石鎚山は現在では年間、頂上までの登山者6万人、散策や中途まで登って山を楽しむ来訪者が10万人となっているが、登山者による最大の負荷は、トイレ問題である。 2010年に「検討委員会」を設置、トイレフォーラムや携帯トイレについてのアンケートなどを行ってきたが、折しも愛媛県自然保護課にも検討の動きがあり、協働することができるようになった。やはり、そのお陰でスピードがあがり、実現の運びになったといえる。民間、行政、大学など、産官学との協働は重要である。我々の活動の目的はトイレを建設することではなく、愛媛の誇り石鎚山をいつまでも美しく未来に残すことである。次のステップとして、この「トイレ利用」を切り口に、山でのルールを訴求していきたいと思う。

◇(北アルプス北部)「感性を大切に」

鍛冶 哲郎(一般財団法人自然公園財団調査役)

 

 子どもの頃、越中の男にとって、立山登山は大人への通過儀礼であった。女人禁制だった立山も、アルペンルートができ、年間利用者は最近では100万人ほどである。屈強な青年だけではなく、子どもや高齢者にも素晴らしい景観を体験できるようになったことは喜ばしいが、過剰・集中利用による自然への負荷の増大、外来種や野生動物の問題、トイレや歩道の緊急な整備の必要など、問題が山積している。山の恐ろしさを解さない登山者の初歩的なミスによる遭難の増加、歩いて登ることで得られる登山のだいご味が忘れられていることも大きい。 なぜ我々は躊躇なく開発の手を伸ばしたか。我が国には、自然愛はあったが、西洋的な自然保護思想がなかったからだとする説がある。自然環境行政はこの考え方で進められたため、自然の評価は風景や自然体験の場としての価値から生態系や生物多様性に重点が移っている。しかし、科学一辺倒の自然感には危うさを感じる。科学的な評価は、自然へのマイナスを開発利益や保全対策のプラス効果で相殺できると考えてしまうからだ。 人間本来の感性で山と接し、山を敬い、山の恵みに感謝し、山と謙虚に向き合うことが重要である。山に登って感性をみがこう。

◆憲章制定の趣旨と経緯について

櫻井 正昭(「山はみんなの宝」憲章制定委員会座長)

(update:2013/10/11) 文責:山のECHO